
太陽が九つあると言われるほど、南迴は一年を通して日差しが強い地域である。2018年5月、台東県は「南方以南−南迴芸術プロジェクト」を打ち出した。アーティスト20名を台東県の太麻里、金鋒、達仁、大武に招き、この地の豊かな文化との対話を通して南迴のランドマークとなる芸術作品が創作された。
細長く連なる南迴の太麻里、金峰、達仁、大武の四郷にはパイワン、アミ、ルカイなどの先住民族と少数の閩南、客家の人々が暮らしている。複雑な地形に加え、暮らしや風習、言語もさまざまで、村ごとに一つの国を成しているかのようだ。
アーティストの半分は台東県の公開コンペで、半分は実行機関「山治プロジェクト」の招きを受けて、台湾、フィリピン、タイ、イタリア、フランスから集まった。彼らは一ヶ月以上、南迴の地に暮らし、地域住民と継続的な対話を重ねた末に創作に取り組んだのである。
この地域の先住民文化はパイワン族を中心としており、エスニックごとに考え方は大きく異なる。プロジェクトのキュレーターを務めた林怡華は「私自身、まずアート展という概念を忘れる必要がありました。アーティストも自分の考えや主張を措くことで、はじめてこの地域でインスパイアされることができます」と語る。こうして生まれた作品は、先住民集落で育つ粟と同様、大地にしっかり根を張っている。

「南方以南」のサービスセンターは、かつては大武のバスステーションだった。出迎えや見送りの記憶に、虹のようなインスタレーションアートが施された。
20の作品は、南迴への20の懸け橋
近年の台湾では、商業的色彩の濃いさまざまな大型フェスティバルが多数開催されており、短期的には経済効果を上げている。あるいは日本の越後妻有の「大地の芸術祭」トリエンナーレのように、アートを地域活性化の動力として観光を発展させている事例もある。
だが、キュレーターの林怡華はこう考えた。この計画の資金は南迴道路拡張計画が地域の文化発展のために還元する交付金から来ているが、この地域ではアートプロジェクトはおろか、大規模なイベントも開催されたことはい。インフラもまだ不十分な僻遠地域であるため、一挙に押し寄せる観光客に対応する準備もできていない。
そこでプロジェクトの準備段階から、林怡華は経済効果を主たる目的にはしなかった。ほとんど人も訪れない山麓や海岸、村落などに点在する作品は、観光客にとってのアクセスの良さなどは考慮していない。日頃は訪れる機会のない場所へ行ってみてほしいからである。作品をメインとした宣伝も行なわず、代わりに50回以上にわたって教育的な内容の文化活動を行なった。言い換えれば、知られていない南迴という地域に、外部と結ぶ架け橋を一つひとつかけていく作業であり、それこそが今回の活動の目的なのである。
そこで、今回は多くのアート・プロジェクトが「アートのためのサービス」であるのとは異なる展開を中心に据えた。台北市立美術館の林平館長は、今回のプロジェクトにおいて、アートは媒介であって最終目的ではないと指摘する。アーティストが現地に長期滞在して生み出す作品は、それ自身が多くの情報を発信するだけでなく、現地住民をも揺り動かす可能性がある。「このような作品は、それに触れた人の考えを変え、何らかの関係を生み出す可能性があります」と言う。
これまでサイクリストたちにとって、台湾一周で必ず通るべき道とされてきた南迴だが、今回のアート・プロジェクトを通して多くの人がこの地を訪れ、滞在するようになれば、それだけで十分に成功と言えるのである。

南迴の住民の多くは先住民族で、至る所でオーストロネシア系の文化が見られる。

《夢を呼ぶ粟酒》黄博志/プランド・アートワーク/安朔集落美美ヘルスサロン(山治プロジェクト提供)

《名前?たくさんあるよ》呉思嶔/ミックスメディア・インスタレーション/大鳥渓の河畔

《南へのベクトル》游文富/立体インスタレーション/下南田海浜

《海から昇る月の物語 》楊雨樵/パフォーマンスアート/台9線大武浜海公園の砂浜

《移動する光景・流れる音楽とダンス 》李世揚/パフォーマンスアート/南迴鉄道・普快車3627

《回遊音楽の集い》文化学習イベント/土坂集落新興橋の下(山治プロジェクト提供)

《再生》豪華朗機工/インスタレーション/大鳥休憩站横の浜海公路(荘坤儒撮影)

《Vuvu & Vuvu》デクスター・フェルナンデス/ペイント/大武中学校

《Inaの思い出の花園》謝聖華/展示プロジェクト/南方以南サービス センター