台湾のクリエィティブ企業・子村荘園がデザインした金魚をモチーフとした小金魚ティーバッグはお湯を注ぐと金魚が尻尾を振り、バラの花びらをあしらった華やかな色彩で可愛らしく、人気のギフト商品となっている。古典的造形に新しいアイディアを組み合わせた小金魚ティーバッグは国際的にも注目を集め、台湾のクリエィティブ産業のスター商品となっている。
2014年が終わろうとする日、子村荘園はフェイスブックの公式ページで、2016年1月分まで予約が埋まったので、注文を締切ったと発表して、ネット上を騒然とさせた。
小金魚ブームが世界を席巻
子村荘園の小金魚ティーバッグは、2013年4月に特許申請を始めてから問い合わせが相次ぎ、製品発表会も間に合わないうちに、ギフトシーズンの中秋節発売開始と同時に売り切れ、年末まで予約が入り、子村荘園の代表兼クリエィティブディレクターの蘇静媚を驚かせた。「オリエンタルテイストの金魚とお茶の組合せで、デザインがよければ世界から注目されます」と彼女は言う。
小金魚ティーバッグは期待に背かず、2014年にはレッド・ドット・デザイン賞を受賞、その後2015年3月にはデザイン界のオスカーと言われるiFデザイン賞において、1624点のエントリー作品から金賞75点に選ばれた。審査員は小金魚ティーバッグのお茶を入れる楽しさと、シンプルでエコなパッケージデザインを高く評価した。
受賞後、小金魚ティーバッグは欧米メディアの注目を集めて評判になり、国外ネットには代理購入サイトまで立ち上げられた。しかし、小金魚ティーバッグは簡単には買えない。2013年から現在まで注文が絶えず、予約は半年待ち、一年待ちである。というのも、このティーバッグの製造工程が複雑で、大量生産できないからである。
金魚は小さくとも整った容姿
小金魚ティーバッグは小さいながら、製造工程は複雑で、16工程のうち精密機械によるカッティングを除く9工程はすべて手作業で、精巧なデザインの美しさを表現する。工程では接着剤などの添加物を使わず、難易度はより高まる。
小金魚ティーバッグのデザインは美しいばかりではなく、水中での浮力、茶葉膨張による圧力と水圧の変化など力学も計算されている。子村荘園ではテストを繰り返し、鰭の両側を非対称にすることで、お茶の中で金魚が滑らかに動くことを発見した。しかも、金魚のおなかが大きすぎると重くなって、お茶の中を泳げない。茶葉の量も重要で、2~2.5グラム、150㏄のカップで入れると効果的である。
ティーバッグの素材も重要である。一般的なティーバッグ用の不織布は厚みがあり、伸縮せず、お茶が浸出しにくい。縫製も密でないと、ラインが美しく出ない。余りに透明だと、見えすぎて薄気味悪い。試行錯誤の結果、ようやく現在の素材にたどり着いた。
複雑な工程と手作業が多いことが、量産のネックになっている。生産量不足を解決するため、子村荘園では2014年から、淡水の聖約翰科技大学と産学協同を開始し、適材の学生を選んで研修として生産ラインに加えた。その効果が上がり、ここ半年で生産量は6倍に向上した。
「この作業にはやる気と才能が必要です」と蘇静媚は話す。ティーバッグ縫製は緻密で安定した作業が求められ、能力のある学生であれば、卒業後に生産チームに迎えられる。子村荘園では、さらに積極的に協力できる大学を募集し、受注に対応したいと考えている。
茶を入れる、オリエンタルな美
魅力的なデザインが小金魚ティーバッグの人気の理由だが、中の茶葉も本格的である。
小金魚ティーバッグの茶葉は、台湾紅玉紅茶、阿里山の金萱茶、南投の玫瑰烏龍茶と、新発売の新竹峨眉東方美人茶の4種である。
東方美人茶は、虫害に遭った茶葉をお茶農家が発酵させて作った紅茶である。これを焙煎したところ、魅惑的な蜂蜜のような香りを備えた紅茶となった。これが人気となって、半発酵の烏龍茶の高級品となったのである。
その虫害の元はチャノミドリヒメヨコバイ(通称ウンカ)で、これに吸汁された若葉が焼けたような黄褐色を呈する。これを著涎と言うが、著涎の程度が高いほど、濃厚な香りとなるという。峨眉郷の東方美人茶園では化学肥料や農薬を使わずに、ウンカと茶の木を共生させている。
蘇静媚は、数年前に東方美人茶を栽培するお茶農家と知り合った。東方美人は著涎の程度により赤、黄、白、青、褐色の五色に変化し、これを小金魚ティーバッグに入れるとより効果的である。そこで2014年から商品化を進め、年末になってようやく製品化できた。
デザインの目的は、より良い生活
これまで台湾の製品はレッド・ドットやiFなどのデザイン賞を受賞しても、市場で売れる商品はほとんどなかった。これについて、台湾の産業界も人材もブランドの概念がなく、デザインと商品化が結びついていなかったからだと台湾科技大学工商業設計学科の王韋堯教授は話す。
実際、子村股份有限公司は1999年の設立なのに2013年になって子村荘園ブランドを立ち上げ、ブランド確立に14年もかかったのである。「ケルンの見本市に参加したとき、台湾館を見た外国人が台湾はコピー王だと言ったのです」と、蘇静媚は胸を突かれたという。台湾にはデザインの人材はいるのに、なぜブランドがないのか考え、子村荘園のCHARM VILLAブランドを立ち上げ、生活を主体に製品をデザインすることにした。
それまでインテリアや大型家具を扱っていた子村荘園は、箸や箸置き、ティーバッグなどの小物に乗り出すことで制約を打ち破り、創造性を発揮することができた。小金魚ティーバッグは、より良い生活の創造を考えたところから生まれた。
「私たちは茶の文化を愛していて、シンプルな方法でこれを国外に広めたいと思いました」と蘇静媚は小金魚ティーバッグが生まれたきっかけを語る。魚は水と自然に結びつくし、金魚は可愛いだけでなく、東洋ではめでたく高貴なイメージもあるので、外国人に東洋の茶文化を紹介するのにふさわしいと考えた。茶碗に泳ぐ可愛い金魚に、お茶の香が漂い、口に含めば甘美な味わいと、視覚、嗅覚、味覚を一度に満足させられる。
小金魚ティーバッグに続いて、2015年には本のデザインの菓子皿を開発した。本を開くように軸に沿って回すと、菓子を盛る皿となる。このデザインも、iFデザイン賞を受賞し、現在量産段階に入っている。
新機軸を打ち出しながら、生活と創造性、市場の需要との間にバランスをとるというデザインの核心コンセプトを守る子村荘園は、台湾文化のソフトパワーと製造のハードパワーを正しく結びつけているのである。
子村荘園の蘇静媚ディレクターは、巧みな工芸を通して台湾の茶文化を世界に広めたいと語る。(子村荘園提供)
精巧で可愛らしい金魚ティーバッグは9つの工程を経て手作りされる。創意あるデザインを通して暮らしをより美しいものにする。
2014年、ドイツのレッド・ドット・デザイン賞を受賞した小金魚。そのシンプルなパッケージも高く評価された。