帰郷生活
雪山トンネルの開通で蘭陽平原に観光客が押し寄せ、経済の衝撃をももたらした。宋隆全は、宜蘭県文化の「発展」のこれからは、宜蘭文化市民の意識確立に立ち戻り、スローライフという宜蘭の生活文化を再構築し『ローカルこそグローバル』という自信を示すことだという。
近年、無公害産業と実験的教育の推進で、宜蘭へUターンやIターンする若者が増えた。宜蘭という土地への思いから、有機農業と消費に取り組み、理念を持った独立系書店を経営し、理想の手作り工房を開き、アート・イン・ビレッジに参画し、海洋文化体験を提供したりする。教育、文化、生態から有機的な好循環を形成している。
出版界の著名人・陳照旗は、ミニトリップと食農文化の出版を長年手がけてきた。三年前、陳照旗は文化事業全体を実家の羅東に移した。
羅東運動公園の広大な木陰の前にあるショップ「回家生活」(帰郷生活)に入ると、1階は文化出版物と環境にやさしい農産品の展示販売、2階はアートに満ちた生活空間になっていて、不定期に地元アーティストの作品を展示する。オープンキッチンでは小規模農家や料理人、読者が向き合って共に考え、創造し、有機食品を味わい、生活の味のする温かい食堂を楽しむ。
陳照旗夫妻は平日は小規模農家を訪ねて「魂ある」食材を探して思想ある料理人に提供し、新メニューを編み出し、一つの食卓で共に食べ、舌で感じる味わいを通じて食農文化を推進する。
「回家生活」はレストランではない。出される料理やデザートには物語がある。三星郷の小規模農家の青ねぎで作った松の実ソースを南方澳の獲れたてカンパチにかける。紫米アイスクリームは穀東倶楽部の頼青松の有機紫米を使っている。
「産地から食卓までの交流の場でありたいと願っています。大地にやさしい帰郷耕作者が理解される機会を作りたいのです」と陳照旗はいう。
員山郷深溝村にたたずむ「小間書菜」の前身は精米所である。主人は米を作り、古本と自然にやさしい野菜とを交換する。宜蘭進士路の古い集落の半月池に面する松園小屋は、農産物の物々交換の場として、環境をテーマとした講座をいつも開催している。宜蘭旧市街の中心地、碧霞宮の路地にある「Stay旅人書店」は、本とデザインを提供する独立系書店である。
「やさしい環境が宜蘭の昔ながらのスローライフ文化と結びついて、徐々に形が見えてきました」二人の娘の教育のために宜蘭に帰り、宜蘭文化の記録にも携わる写真家の楊文卿がいう。
毎年春夏の緑の博覧会や童玩節は、一見カーニバルのようだが、宜蘭県にとっては宜蘭風土博物の総集成に当たり、宜蘭地域振興の組織力の実践と検証である。星のようにきらめくアートスペースは、文化クリエイティブの育成基地である。有機農業からスローライフまで、やさしく美しい生活を築き、宜蘭の人々の帰郷を促す。「幸福の宜蘭、創意の街角」が文化宜蘭の過去であり、現在、未来なのである。
今年のアート・イン・ビレッジの最初のイベントは「おじいさんの精米所」で開かれた。写真は家主の徐朝魁と徐文仲親子。(蔡文婷撮影)
宜蘭県政府による保存と再生を経て、かつての製紙工場が文化を育成する中興文化クリエイティブパークへと生まれ変わった。(宜蘭県文化局提供)
蘭陽博物館はその建築物自体が芸術品であり、展示されているのは「宜蘭」である。ここで開催される四季ミュージックフェスティバルには多くの音楽ファンが訪れる。(楊文卿撮影)
宜蘭へUターンしてきた若者が「回家生活」で産地から食卓までの環境にやさしい交流の場を運営している。写真は「回家生活」が開催した李宗儒陶芸展。(宜蘭文化局提供)
作家の黄春明が運営する百果樹赤レンガの家と幾米(ジミー)広場は、作家や文学作品と出会える場であり、宜蘭旧市街地の空間を活性化している。(楊文卿撮影)
南方澳の文化史研究者である廖大慶は、父が残した鉄工所を三剛鉄鋼廠文物館へと変え、毎年アート・イン・ビレッジ・プログラムに参加している。
夕日に輝く穏やかな烏石港の海辺。宜蘭の豊かな大自然が多くの若者のUターンやIターンを促している。