歴史的建造物の一つ一つを
現在の台博館には、「台湾総督府博物館」であった本館のほか、かつて「勧業銀行」だった土銀展示館、「専売局南門工場」だった南門パークの小白宮と紅楼、そして台北の北門にある「台湾総督府鉄道部庁舎」だった現在修復中の鉄道部が含まれる。
これらは1902年から1933年の間に建てられたもので、「この30年間は、台湾が農業社会から商工業社会へと近代化を遂げた過渡期に当たります」と李乾朗は言う。それが建築スタイルや建材にも反映され、1915年完成の台博館本館はヨーロッパの典型的なルネサンス様式、1933年落成の勧業銀行は日本、アジア、アメリカ大陸などの様式が建築に取り入れられている。また、1912年に阿里山鉄道か開通したため、1919年竣工の鉄道部庁舎は、タイワンヒノキが初めて大量に使われた建築となった。
年代が最も古い小白宮は1902年完成、当時の樟脳製造工場の一部で、倉庫として使用されていたもので、台湾に現存する最も古い近代式石造洋風建築である。小白宮の特色は、屋根天井部が上下でキングポストトラスとクイーンポストトラスの構造になっていることや、台北城壁を撤去した際の石材が外壁に使われ、台北の歴史を受け継いでいることだ。
1914年建築の紅楼は、赤レンガを用いた英国ビクトリアン様式が取り入れられている。外からは3階建てに見えるが、実際には2階建てで、重量を支えるため、鉄筋コンクリートの梁や柱が多く組まれている。かつては樟脳を置く倉庫であった紅楼は産業遺産でもある。
1915年完成の台博館本館は台湾における代表的な新古典主義建築で、設計者は野村一郎である。平面的に見ると横長の長方形で、中央に入り口を持つ左右対称の造りだ。建物外部の柱はドーリア式、内部の柱はコリント式になっている。ホールに立って天井を見上げると、ステンドグラスの天窓と、アーチ型に鉄筋を組んだドームが見える。これは、ローマのパンテオン神殿を模したもので、ルネサンス・ドーリア式をそのまま再現しており、ギリシャ・ローマの古典主義を懸命に学び取った成果だと言える。建築構造がよくわかるように、李乾朗は建物正面の断面図と斜め上からの視点によって、建物の細部や全体の配置関係を描き出している。
台北の北門の向かい側にある鉄道部庁舎は1919年完成で、1階は赤レンガ造り、2階以上は木造建築という、台湾に現存する最大の半木骨造建築である。設計は森山松之助、彼はほかにも台湾で専売局(現「公売局」)、台北水道ポンプ室(現「自来水博物館」)などを建てた。鉄道部の建物はV字型の配置で、その先端が通りに面した入り口だ。正面には三面の窓を持つタレットが左右に一つずつ張り出している。タレットは通りに面した建築物にはよく見られ、内部の利用スペースは狭く、ただ見栄えをよくするために加えられることが多い。内部の間取りがよくわかる断面図からは、構造の美が感じられる。
土銀展示館の建物は1933年の竣工だ。どっしりとした雰囲気の柱が並ぶが、柱頭は伝統的なギリシャやローマ様式ではなく、稲穂や獣頭をかたどった幾何学的で独創的な装飾には、東洋文化との折衷が感じられる。大型の恐竜が展示されているのを描くため、李乾朗は当初、高い視点から作図していたが、後に低い視点からの図に変え、柱も高く浮かせる構図にしたので、回廊天井部の細部まで見て取れる。
低い視点から描いた土地銀行展示館。外観の柱列を上に描くことで、その内側の回廊の天井の細部もよく見えるようにした。