腹も満たせる祭祀用菓子・糕仔(ガオザイ)
基隆の廟口老街にある「連珍糕餅店」は、地元の老舗ブランドだ。近年、同店のタロイモを使った菓子がネットで評判を呼び、日本進出も果たした。伝統的な菓子店から始まった百年以上の歴史を持つ老舗だが、その伝統をおろそかにせず、今も季節に応じた多彩な菓子を作る。
糕仔(ガオザイ)について話していると、三代目の鄭芸達さんが、「昔は比較的良く見かけたのが糕仔で、儀式や結婚式に使われていたのが大餅(ダービン)です。糕仔はおやつとして日常的に買えました。材料も手に入れやすいですし、作るのも難しくないんですよ」と教えてくれた。
連珍の工場に足を踏み入れると、職人たちが「素方糕(スーファンガオ)」を作っていた。「今でもかなりの部分を手作業で作っています」と連珍糕餅店の四代目、程家旭さんが説明する。材料は、火が通るまで炒めたもち米粉、砂糖、餡で、まずは米粉をふるいにかけてから、砂糖とよく混ぜる。素方糕は3層に分かれたお菓子だ。材料も3つのボールに分かれており、職人がまず長方形の型に一番下の層の粉を敷き詰め、道具で表面を平らにならす。曰く、「大切なのは職人の技と力加減で、均等にならさなければなりません。機械を使って押さえることも試してみたのですが、力が強すぎると固くなり食感が悪くなり、サクサク感がなくなってしまうんです」とのこと。二層目、三層目と続けて押してから、十数時間寝かせる。「寝かせるのは、水分を吸収させるため。そうしないと砂糖の働きが発揮されないからです」。
「糕仔作りで最も重要なのは『砂糖』。私たちは今でも発酵させた砂糖を使っています。砂糖を細かくすりつぶして酵母で発酵させ、粘り気のある白糖にすることで、粉末状の材料をくっつけることができるのです」と鄭芸達さんは説明する。砂糖で風味が加わるだけでなく、菓子の形が整うという働きもある。中元祭で使われる糕仔潤(ガオザイルン)の場合は、更に蒸すという工程が入るので、よりもちもちした食感になるという。
中元祭は基隆の重要な年中行事だ。糕仔は“おばけ”との重要なコミュニケーションの橋渡しをするとされ、タワーのように積み上げた「糕盞(ガオザン)」を作る風習がある。糕盞には、どんどん出世するという意味があるだけでなく、高さがあるほど、遠方から来る“おばけ”の目につきやすいとも言われている。「かつて基隆で船が出航する際、乾物として糕仔を船に積んでいました。腐りにくくて、保存期間が長く、腹を満たすこともできたので」と程家旭さんが教えてくれた。糕仔が基隆と深く結びついてきたことがわかる。
昔の糕餅店の営みについて興味があった私たちに、鄭芸達さんが、伝統的な糕餅店は、祭祀に必要な品を時期や季節に合わせて作っていたのだと説明してくれた。季節性が強く、月によっても状況が大きく異なったという。夏などは午前中で仕事が終わると、午後は皆で泳ぎに繰り出したこともあったとか。他の仕事もして、中元祭になると戻る者もいたそうだ。「当時は、生産量の調整が難しく、皆の助け合いに頼らねばならなかったんです」。様変わりした今は、「企業化し、1日の流れに沿って作業が組まれ、シフトは1カ月前から決められています」。こうした鄭芸達さんの説明から、年中行事と密接に結びついていた伝統的な糕餅店の営みが、徐々に日常の中に入ってきたことがうかがえる。
揚がった粩(ラオ)に麦芽糖シロップをからめ、白い米粒をまぶす作業を一人で同時にやってのける職人。(撮影:林格立)