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産業イノベーション

台湾の力で作った衛星

台湾の力で作った衛星

フォルモサット5号の成功

文・曾蘭淑  写真・國家太空中心提供 翻訳・笹岡 敦子

5月 2018

イラスト/王敬勛

開発に6年を費やした総工費56.59億台湾元のフォルモサット5号は、台湾初の自主開発・製造による高解像度光学観測衛星である。

2017年8月25日、フォルモサット5号はカリフォルニア・バンデンバーグ空軍基地から打ち上げられたが、衛星が休止状態に陥ったり、画像がぼやけるなど、開発グループは不眠不休で対応に当たった。4か月後、フォルモサット5号から台湾の精細な衛星画像が届き、台湾の宇宙工学の技術力が世界に示された。

2017年8月25日午前2時51分、地球観測衛星フォルモサット5号は、米スペースX社のロケット「ファルコン9」に搭載され、720kmの高度に打ち上げられた。太陽同期軌道で運行し、観測画像の撮影等の任務を遂行している。

フォルモサット5号プロジェクトを指揮した張和本博士。フォルモサット5号の自主開発に成功できたのは、チームが次々と困難を解決し、英知を結集した結果だと語る。(林旻萱撮影)

フォルモサット5号、発射!

発射から11分19秒後、フォルモサット5号はロケットから分離した。83分後、ノルウェー・スヴァールバル衛星通信局が初めてフォルモサット5号の信号を捉え、100分後には二度目の信号を受信した。衛星軌道の傾斜角がカバーする緯度の範囲は限られるため、台湾がフォルモサット5号の信号を受信したのは400分後だった。

「アメリカの発射場で台湾の通信ステーションの歓声を電話で聞きました」6年間、初めから終りまでフォルモサット5号計画を主導した張和本博士は、3秒おいて言った。「感無量でした」

国立宇宙センター衛星統合試験棟ではフォルモサット 5 号の振動試験や熱真空シミュレーションなどを行なった。将来的には他国が製造する衛星のシミュレーションテストも受注できる。

初の純国産衛星

台湾は1994年に衛星開発を決めたが、基礎がなく、フォルモサット1~3号は海外との協力で進められた。米・英・仏等に設計や衛星のユニットやサブシステムの製作を委託し、組み立てた。つまり欧米の企業に「発注」して作られた。

フォルモサット5号だけが、台湾国家宇宙センターがフォルモサット2号を元に最初から仕様と規格を設計し、50を超える産学チームの連携で開発と製作を進めたのだった。

フォルモサット5号は数々の「史上初」を生んだ。衛星本体に初めて台湾人が作った衛星コンピュータ、初めて自力で書いた衛星飛行ソフト、初めて自力で配分した電力制御・分配ユニットを備える。主な2つのペイロード(ミッション機器)の一つ、RSI(リモートセンシング装置)が搭載するCMOSイメージセンサは台湾製だ。CMOSは電機・機械・構造・光学に関わるキーユニットである。もう一つ「電離層観測装置」も、台湾・国立中央大学宇宙科学研究所が20年の蓄積から、電離層プラズマのパラメータ測定装置を製作した。地震直前の異常現象の予測に役立つ。

国立宇宙センター衛星統合試験棟ではフォルモサット 5 号の振動試験や熱真空シミュレーションなどを行なった。将来的には他国が製造する衛星のシミュレーションテストも受注できる。

ゼロからの蓄積

1994年、台湾は米TRW社にフォルモサット1号製造を委託した。本国の専門家を必要としたため、当時の国家宇宙計画局主任・戎凱が、米マーシャル宇宙飛行センターにいた張和本に台湾に戻るよう頼んだ。TRW社との技術移転では、台湾のエンジニア二十数名がTRWで2年半トレーニングを受け、張和本がそのリーダーを務めた。「知られたくない技術はあるものです。そこはエンジニアが質問しつつ探りました」張和本は各人に技術レポートを月1本以上書かせた。トレーニングを受けた内10人は、フォルモサット5号開発のレギュラーメンバーになり、二十数本のレポートが問題解決の「参考書」となった。

フォルモサット5号は2日に一度台湾の上空を通過する。地球全体の画像を撮り、衛星オペレーションコントロールセンターがその情報を受信する。

自力で前進

フォルモサットは1号から3号があって4号はない。張和本の帰国前の一年、国家宇宙センターの士気はどん底だった。衛星「ARGO」の購買プロジェクトの落札業者に問題が出て、解約せざるを得なかった。計画は滞り、宇宙センター解散の声まで聞かれた。海外の企業に左右されたくなければ、「自主開発」しかなかった。

しかも宇宙技術のデバイスは、モノクロ解像度30cmのレンズなどは軍事使用レベルだから輸出が制限され、資金があっても手に入らない。後塵を拝すつもりがないなら、自主開発である。

フォルモサット5号計画作成に当り、米ボーイング社に12年勤務していた張和本に再び声がかかった。だが台湾に戻れば報酬は半分以下になる。「リーマンショック直後です。ボーイングを辞めたら老後の安心はないと思いました」

フォルモサット5号は2日に一度台湾の上空を通過する。地球全体の画像を撮り、衛星オペレーションコントロールセンターがその情報を受信する。

大勢の思いが集まって

自主開発と言うは易しいが、6年間の困難は数知れない。直径45cm・重さ10kgのレンズをペイロードに搭載するのに、本には絞めても接着してもいいとあるが具体的には書いていない。宇宙空間での劣化や変形もある。解決に半年かかった。

さらに寿命測定では、金の導線が跳ね上がる。失敗を重ね、99.99より高純度なら良いとわかった。「解決方法はベストではなかったとしても、どんな問題も解決できると知りました」

フォルモサット5号には台湾人が独自に開発した部品が多数使われている。衛星コンピュータやCMOSイメージセンサーチップなどだ。(林旻萱撮影)

試練は続く

しかし、打上げ成功の喜びも束の間、フォルモサット5号が2周目以降に送ってきた数値が「おかしい」ことに気づく。

張和本はフォルモサット5号を「我々の衛星」と呼ぶ。「我々の衛星は自分で角度を調節して、太陽に向いて発電します」だが、発射100分後から電力が落ち続け、システム保護のための休止モードが起動した。メンバーの沸き立つ心も谷底へ転落し、副主任の余憲政は涙をこぼした。発電できなければ任務は終了、「おしまい」である。

フォルモサット5号は99分で地球を1周する。コントロールチームは不眠不休でこれを追い、99分に1回届く情報を解読し、問題の所在を探った。チームは冗談めかす。「衛星は眠り続け、私たちはずっと眠りませんでした」

「3日後にアメリカから台湾に戻ると、分かったというのです」張和本は今だから朗々と話す。「リアクションホイール4つのうち、2組の配線が間違っていて、衛星が保護モード(フェニックスモード)に入ったのです。フォルモサット3号の設計を改良し、トラブル時に自動で保護モードになるようにしてあります」

「すごいチームです。飛行ソフトのプログラムは一行一行を自分で書いていますから、プログラムを修正し、配線を直したのです。4つのホイールに4の階乗(4!=4x3x2x1=24)で24種類ある組合せをシミュレーションし、地上から『修理』を試みました」解決後、コントロールチームは「もう怖いものなしだ」と言ったという。

米国人として初めて地球を周回したジョン・グレンは「真の英雄とは、障害に直面して諦める前に、最後にもう一度トライする人のことだ」と言った。フォルモサット5号の打上げは、台湾の宇宙技術が試練を乗り越える実力を証明した。

フォルモサット5号には台湾人が独自に開発した部品が多数使われている。衛星コンピュータやCMOSイメージセンサーチップなどだ。(林旻萱撮影)

台湾を守り、技術で外交

ところが、フォルモサット5号が2017年9月7日に送信した初の映像は、光点がありぼやけていた。温度調節とデコンボリューション(ピンぼけを取り除く手法)等で校正し、昨年11月には解像度がモノクロ3m、カラー5mまで向上した。

フォルモサット5号は打上げから半年で2300組の画像を撮影し、地球の電離層の観測にも成功している。国際救援組織や各国に防災・災害状況把握、国土保全、環境監視などでの利用を提供できる技術外交における「大使」である。

今(2018)年2月6日夜の花蓮地震で、フォルモサット5号は早くも機能を発揮した。地震前後の山の広い面積の写真を対照して、崩れた地点や変化した場所など、重要な被災情報を把握できた。台湾を守る力強い助っ人になった。

新たに国家宇宙センター主任に就任した林俊良は、2019年から第三期国家宇宙技術開発計画をスタートさせる。(林旻萱撮影)

新たなマイルストーン

フォルモサット5号の開発成功は台湾を新たなステージに押し上げた。フォルモサット7号も試験を終え、今年6~8月に打上げを予定する。10年にわたった第二期宇宙計画が一段落する。

今年2月に着任した国家宇宙センター主任・林俊良は「2019年からの第三期国家航空宇宙技術発展計画を練ることが任務」という。

「今後十年、台湾は先を見据えた衛星技術を開発し、地球を出て月の周回や火星の探索に乗り出します。また衛星商業化の趨勢のなか、三十年の自主開発技術を民間産業界に拡大して発展を牽引し、更には産業チェーンを形成し、航空宇宙産業パークを構築したいと考えています」

宇宙技術は一国にとって平和的な実力誇示である。林俊良は真剣に言う。「台湾は小国ですから、大国とは宇宙技術に注ぐ人材も予算も比べられません。しかし台湾は、世界の半導体をリードするエネルギーと宇宙産業の開発力で、キーデバイス、ユニット、システムの製造に焦点を絞り、台湾ならではの宇宙産業を築けば、海外も台湾から購入するようになるでしょう」

宇宙の夢は米ロだけのものではない。フォルモサット5号は台湾にもその力があることを証明した。宇宙の夢は手の届かないものではない。

 

新竹サイエンスパークにあるリモートセンシング画像データ受信ステーション。