酷暑の7月の午後4時、新北市八里の砂浜に暑さを恐れない数百人の「勇士」が集まった。彼らの武器は手に持ったゴミ拾い用のトングとゴミ袋、そして日除け用の帽子に長袖を着ている。集合した彼らは2人の若者の号令に耳を傾け、敵との戦いに出ようとしている。
彼らの敵は、砂浜のゴミである。600人が午後いっぱいをかけて、3トンを超えるさまざまなゴミを拾った。ビニール袋、煙草の吸殻、ペットボトル、ガラスの破片、弁当の空箱などだ。新北市はゴミ回収車を2台出して彼らの戦利品を収集し、この砂浜の戦いに幕を閉じた。
この戦いの功労者として忘れてはならないのは2人の若者である。アメリカから来たダニエル・グル―バーと台湾人の黄之揚は、RE-THINKの共同創設者で、彼らのゴミとの戦いはすでに3年続いている。
熱血のきっかけ
3年前、ダニエルは上海から台湾に来て、高雄の中山大学の大学院に入った。マリンスポーツが好きな彼が友達と一緒に小琉球(屏東県の離島)へ旅行に行き、ビーチに行って海に入った時、手足にビニール袋がからみ、気持ちの悪い思いをしたのである。そこで彼は、自分で周囲のゴミ拾いを始めたところ、あっという間に大きな袋がいっぱいになってしまい、肩に担がなければ運べないほどの重さになった。同行していた友人がこれを写真に撮ってフェイスブックにアップしたところ、大きな反響があった。「外国人が台湾でゴミ拾いをしている」という評判が広がり、台湾人もあらためて考える(RE-THINK)ようになったのである。
ネット上では「外国人がビーチでゴミ拾いをしているなんて、恥ずかしい」という意見が大半だったが、ダニエルは「自分が海辺で遊んでいる時に、身体がゴミに触れるのが嫌だっただけ」と笑う。それでも、これがきっかけで多くの人がビーチクリーン活動やゴミ減量の列に加われば、それも良いことだと考えている。
当時、黄之揚はダニエルが英語を教えている学校で代替役に就いており、ダニエルの行動に感銘を受けた。「僕たちは子供の頃から環境保全について学んでいるのに、本当に身をもって実践している人はごくわずかです」と言う。そして彼は、ダニエルと一緒に台湾の海や環境のために何ができるか考えるようになった。
すべてを可能にする台湾人
自分の周りのゴミを拾ったことから、台湾一周のビーチクリーン活動へと拡大し、さらにファン5万人を要する団体へと発展した。ダニエルは、これらすべては台湾人だからだと言う。
「まるで映画のヒーローになったみたいです。でも、その名前はゴミ・マンですね」とダニエルは笑う。かっこいい名前ではないが、気に入っているという。スーパーマンと同様、ヒーローは人々に必要とされて存在する。「ゴミ・マンも台湾人に必要とされているんです」
ダニエルは、自分が特別なのではなく、単に先頭に立っているだけだと言う。そして台湾人に支持されることを不思議に感じている。
「2年前に台中でゴミ拾いをする予定になっていた日、あいにく大雨が降ったので、誰も来なければ一日休むのも悪くないと思っていました」と言う。ところが、参加を申し込んだ人は全員そろい、皆で雨合羽を着て頭に笠をかぶり、雨の中でビーチ清掃をしたのである。皆が互いに傘を差し合い、励まし合う姿を見て、ダニエルの顔は雨と涙で濡れた。
「ビーチに倒れてしまいそうなほど疲れることもあります。これほど多くの人の支えがなければ、私も続けることはできません」と言う。海岸は日差しと風が強く、歩くのも辛い時があるが、自分を支えているのは信念だけなのである。
簡単ではないビーチクリーン活動
ビーチ清掃では、体力が必要なだけではない。主催者であるダニエルと黄之揚には、他にも気を付けなければならない問題がある。
最も難しいのは参加者のコントロールだ。中にはゴミの分類をしない人もいれば、清掃活動が終わっても帰ろうとしない人もいる。「ゴミ拾いは遊びではありません。汚れるし疲れるのに、帰ろうとしない人もいるのです」と黄之揚は言う。
清掃活動の前には、地元の政府機関と清掃部門に連絡を取り、清掃道具の提供とゴミの回収を求める。昨年、基隆の外木山でビーチクリーンを行なった時は、地元のゴミ回収機関からザルが提供された。「最初は意味がわからなかったのですが、現場へ行って理解できました」とダニエルは言う。実は外木山の砂浜のゴミは細かく砕かれていて、一つひとつ拾うことができず、ザルを使ってすくわなければならないのである。
ある時、参加者が清掃のためにトングやビニール袋を買ってきて、清掃が終わるとそれらを捨てていった。黄之揚は「ゴミ拾いのために、新しいゴミを作っていたのでは本末転倒です」と言い、なるべく家にある道具を持ってくるよう呼びかける。家に道具がなければRE-THINKか行政の清掃部門から借りればよいのである。
参加者が増えるにつれ、ダニエルと黄之揚はRE-THINKの持続可能な運営を考えるようになった。社会的企業にしようかとも考えたが、まずは組織化から始めることにした。
「私たちは海と自然を愛していますが、これを永遠に続けられるとは言い切れません」と黄之揚は言う。彼らの目標は、ダニエルと黄之揚がいなくてもRE-THINKが続いていくようにすることなのである。そこで今年から、RE-THINKの一部の活動の主催を協力関係にある国防医学院の学生に任せ、二人は協力するだけにした。「私たちの理想は、台湾各地にRE-THINKの支部ができ、より多くの場所で数多くのビーチクリーン活動を開催することです」と言う。
RE-THINK―生活を考え直す
ハワイで育ったダニエルは、海に大きな関心を注いでいる。「ゴミは台湾の問題ではなく、地球の問題であり、また環境保全の問題ではなく、生存の問題なのです」と厳しい表情で語る。
ビーチ清掃の過程で、ダニエルには気づいたことがある。ゴミの一部はビーチを訪れた人がその場で捨てて行ったものだが、少なからぬゴミは誰かが故意に投棄したものなのである。「花蓮の七星潭では、海岸近くの灌木の間に、ゴミをいっぱいに詰めた大きな袋が数十も捨ててありました」と言う。また多数のタイヤが捨ててあることもあり、これらは観光客や行楽客が捨てたものではないのは明らかだ。
「そこで、私たちはRE-THINK(あらためて考える)という名前をつけたのです。人と物と環境の間の関係を、あらためて見つめなおしてほしいと思うからです」と黄之揚は言う。一時の便利さを求めて、私たちは毎日大量のビニール袋や使い捨ての食器を用いるが、それらが最終的にどこへ行くのか見ることはないため、そうした生活を続けているのである。
「毎回たくさんのゴミを拾っても、次に来た時はやっぱりゴミがたくさん落ちている。ビーチクリーン活動は本当に役に立つのだろうか?」とダニエルはよく聞かれるが、これに対して「正直なところ、ビーチを清掃しても一度ですべてのゴミを拾うことはできません。それでもやらなければなりません」と答える。それは家の掃除と同じだ。家は、また汚れるからと言って掃除をしないわけにはいかない。環境に対しても、同じ態度で臨まなければならないのである。
「より重要なのは、こうした精神を次の世代にも教えていくことです」と黄之揚とダニエルは言う。RE-THINKの核心を成す精神は実は環境教育の推進である。そして最良の教育方法は自ら手本を示し、実践して見せることだ。これほどのゴミがあることを子供たちに見せ、生活習慣を変えていくのである。
「ゴミの氾濫と汚染は誰か一人の過ちではなく、全人類の過ちなので、誰かを責めても何の助けにもなりません。最良の方法は、今すぐに行動に出ることです」とダニエルは語る。
アメリカ人のダニエル・グルーバー(左)と台湾の黄之揚(右)は、環境を守りたいという情熱だけで1万人を超える人々をビーチ清掃に集め、少しずつ台湾人の暮らしを変えている。(RE-THINK提供)
ビーチクリーン活動は強い日差しと風との戦いであり、またさまざまなゴミを手に砂浜を歩かなければならず、精神力がなければ続けられない。
ダニエルの物語が多くの台湾人を感動させ、今年の新北市八里でのビーチクリーン活動には600人が集まった。長い列が人々の熱意を表している。(RE-THINK提供)
ビーチクリーン活動の基本装備は日焼け対策とトングとゴミ袋。現地の行政部門も協力し、参加者に清掃道具などを貸し出す。
「RE-THINKは砂浜を清掃するだけではありません。より重要なのは自ら手本を示す教育としての意義で、次の世代に環境問題の存在を教え、暮らし方を変えていくことです」と黄之揚は語る。