台湾のために歌う
「伝えたいのは、台湾は最初からこんなに自由で民主的だったわけではないということです。民主主義は多くの人の努力によって得たものなんです」と楊大正はアルバムのコンセプトを語る。台湾では、日本の植民地統治時代から二二八事件、戒厳令、白色テロなどを経て戒厳令解除後の今日まで、多くの社会運動家が自由のために力を注いできた。これらの人々はすべて無名の英雄なのである。
このアルバムの中で、発売前から注目されてきた楽曲「双城記」は、香港の作詞家‧林夕とのコラボで、1947年の台湾と2019年の香港を重ね合わせる内容だ。
2019年5月、楊大正と林夕は金曲賞の審査員となり、林夕はこう語った。「私はいつもラブソングを注文されるんですが、こんな厳粛な歌を書いてくれと言われたのは初めてです」と。
それが同年6月、香港で逃亡犯条例改正案に反対するデモが始まり、多くの背景が台湾の二二八事件と重なった。そこで、当初は「悲情城市」だったタイトルを「双城記(二つの都市の物語)」へと変えたのである。
「無名英雄」というタイトルには、もう一つの意味が込められている。台湾のスポーツ選手が世界で活躍しても、国際社会における境遇から、台湾のことをきちんと紹介できない。
陳敬元もこう話す。産業や医療、ハイテクなどさまざまな面で、また最近は新型コロナウイルス対策においても台湾は世界から注目されており、「台湾はまさに無名の英雄のように、国際社会に貢献できるのです」と。
こうしてFire EX.は、音楽を通して多くの人に台湾に触れてもらおうとしている。
良い時もあれば悪い時もある。「島嶼天光」がヒットした年、彼らは解散の危機に見舞われた。
当時、所属事務所の財務状況を知った彼らは解散を考えた。楊大正と陳敬元と鄭宇辰の3人は石垣島で人生を考え直し、やはり一番大切なのは音楽だという結論に達した。そして帰国後、自分たちで火器音楽公司を設立し、4枚目のアルバム『重生』を発表したのである。
個人的な心境と環境がアルバム創作のインスピレーションとなる。写真は台湾の民主化の歩みを記念した『無名英雄』。