
秋になると、台湾のアニメ業界は気ぜわしくなる。台中国際アニメ博覧会、台湾アニ カップ、関渡国際アニメフェスティバルなどが相次いで開催されるからだ。これらは優れた作品や人材のための舞台であり、観客にも新たな視野をもたらす。また、政府文化部もさまざまな支援計画を打ち出し、創作者のサ ポートに力を注いでいる。
秋の日の午後、新北市板橋の台湾芸術大学映画学部から拍手が聞こえ、作者が日本語や中国語で創作理念を語っている。台湾アニカップが開催されていたのである。

関渡国際アニメーションフェスティバルでは、海外から講師を招いてワークショップも開いている。
日本とのアニメバトル
台湾チームと日本チームがそれぞれ短編アニメを5本ずつ用意して、1作品の上映が終わるごとに観客は5秒間の拍手でそれを評価する。続いて相手チームの作品が上映され、どちらが優れているか決めるのである。1ラウンドが終わるごとに、両チームは作品のコンセプトを説明し、続いて審査員が蛍光棒を挙げて投票する。青い蛍光棒は台湾、赤は日本である。審査員の票と観客の拍手の大きさで得点がつけられ、結果はすぐその場で発表される。
観客にとって、これはユニークな観賞経験であり、さまざまなテーマの実験的なアニメを楽しむことができる。
このCGアニメバトルは1989年に日本で始まったが、当時は日本国内だけで募集していたので台湾ではあまり知られていなかった。この面白いコンペティションを台湾に導入したのは、台湾未来影像発展協会の林瑋倫会長だ。長年日本に暮らしてきた彼は、2012年に京都府が中心となって行なうKYOTO CMEXの委託を受け、CGアニメコンテストの初の国際大会開催に協力したことがきっかけとなった。
当初は日本とデンマークの2ヶ国のみによるコンテストだったが、林瑋倫が台湾オリジナルの短編アニメを5作品集め、台湾アニカップを開催することとなった。2014年、林瑋倫は機が熟したのを見て、日本のCGアニメコンテスト主催機関からライセンスを得て、「台北国際デジタルコンテンツ交流会」が開催される期間に合わせ、日本の『進撃の巨人』プロデューサーである中武哲也氏とアニカップ創設者の鎌田優氏を審査員に招き、第1回台湾アニカップを成功させたのである。

台湾アニカップはコンテストではあるが、その実質は火花を散らす国際交流である。(台湾アニカップ提供)
台湾アニメを世界に
コンテスト形式ではあるが、目的は国際交流である。これまでの審査員を見ると、日本のアニメ監督やプロデューサー、米国ピクサー・アニメーション・スタジオのキャラクター・デザイナーなどが名を連ね、経験を分かち合う講座なども開かれ、国際協力の機会ももたらしている。
「誰もやろうとしないことをやるだけです」と林瑋倫は言う。アニメは林瑋倫の夢だが、日本の専門学校の学費は高いため、彼はデザイン学科に進んだが、アニメへの情熱は失っていない。
アニカップの他に、2016年から林瑋倫は日本の東京国際映画祭と台湾駐日文化センターと協力して、東京国際映画祭において「東京台湾未来電影ウィーク」を開催している。アニメを含めた台湾のオリジナル作品を海外で上映し、台湾の監督を日本に招くなどして交流を深めている。
長編映画に比べると、短編フィルムの創作者の多くは孤軍奮闘しているので、林瑋倫はそうした人々の露出度を高めたいと考えている。台湾未来影像発展協会の連合応募システムを使って作品を応募しさえすれば、同協会と協力関係にある30余りの映画祭機関にも応募したこととなり、創作者が一つひとつ申請する時間を削減できる。「効率よく台湾の作品を世界に送ります。台湾の優れた創作力が大学卒業とともに止まってしまわないよう、世界にアピールしたいと思います」

台湾と日本のチームがそれぞれの作品を上映すると、審査員はすぐに蛍光棒を挙げて良かった作品に投票する。勝敗がすぐに決まる過程は緊張感に満ちている。(台湾アニカップ提供)
関渡平野のアニメフェスティバル
台湾未来影像発展協会は、台湾の作品を世界に届けようとしている。一方、関渡国際アニメフェスティバルは、台湾が世界の創作者のために設けた舞台である。
台北芸術大学アニメーション学科が主催する関渡国際アニメフェスティバルは2011年にスタートしてすでに8回を数える。世界中から作品を募集しており、応募件数は年々増加している。2018年には89ヶ国から2200を超える作品が集まった。「応募件数の多さからも、すでに世界的に有名なフェスティバルになっていることがわかります」と、フェスティバルの総監督で台北芸術大学アニメーション学科主任の史明輝は言う。
応募された作品は、同学科の教員たちが幾度も審査選考を重ね、最終的に83作品がコンペティションに参加、54作品がコンペティション以外の一般上映となった。
アニメにはキャラクターが必要だが、史明輝はこの概念をフェスティバルにも取り入れ、関渡の英語であるKuanDuからKuanDogという犬を生み出してフェスティバルのイメージキャラクターにし、KuanDog賞を設けた。
アカデミー賞を受賞したアニメーションの多くが、それより前に台北でKuanDog賞を受賞しているため、史明輝は、同賞をアカデミー賞の前哨戦だと言って笑う。例えば、2016年に『ベア・ストーリー』でアカデミー賞最優秀短編アニメに輝いたチリのガブリエル・オソリオ監督にとって、初めての受賞は2014年のKuanDog賞だった。その後、彼は他の国際映画祭でも受賞し、最終的にアカデミー賞を取ったのである。2016年に関渡国際アニメフェスティバルに招かれたガブリエル・オソリオ監督は講演で、「まるで実家に帰ってきたようで、非常に大きな意義があります」と語った。
映画祭は世界に台湾をアピールすると同時に、台湾の観客に世界の作品を見せる場でもある。関渡アニメフェスティバルではエントリー作品を上映する他、海外のキュレーターに企画を依頼したプログラムも行なわれる。今回はイギリスのブリティッシュ・アニメーション・アワードのノミネート作品が上映された。

次にどの作品を上映して対抗するかを真剣に話し合う選手たち。(台湾アニカップ提供)
アニメの種をまく
「国内市場は小さく、アニメには企画から制作まで非常に長い時間がかかりますが、投資家は一年で資金を回収したいと考えるため、出資する人が非常に少ないのです」と、自らもアニメ監督である史明輝は語る。このように台湾のアニメ制作は非常に困難だが、彼は諦めようとはしない。「台湾アニメは40年来、輝かしい成果を上げてきたとは言えませんが、だからといって若い世代を育成しないことはありません。景気が悪く、状況が良くないからと言って育成しなければ、将来どこに人材を求めればいいのでしょう」
「児童アニメキャンプ」はアニメフェスティバルから派生した教育活動だ。台北芸術大学アニメーション学科の教員と学生が、厳選した短編アニメをもって僻遠地域の小中学校で上映し、ワークショップを行なうというものである。「台湾の子供たちは幼い頃から日本やアメリカのアニメを見て育っており、高校や大学のアニメサークルはほぼ日本アニメ一色です。しかし、他の国にも実験的な優れた作品があり、違うタイプの作品にも触れてほしいのです」と史明輝は言う。
子供たちには多くの国のオリジナルアニメを見てもらい、それから粘土や切り絵、手描きなどもアニメの素材になることを理解させ、興味を持ってもらう。「アニメとは何か、どう作るのかを知り、その多様性や国際性を知ることができます。この種が芽を出すかどうかは分かりませんが、子供たちは贈り物を手にしました。あとは天に任せるだけです」と史明輝は言う。

アニメを愛する林瑋倫は、その熱意だけで台湾未来影像発展協会を設立し、創作者と世界と結ぶ橋を架けた。(林旻萱撮影)
文化部による多様なサポート
ひとつのアニメを制作するには、物語やキャラクターの設定といった企画段階で数えきれないほどの議論を重ね、物語の雛形が形成されてからようやく制作段階に入るが、その制作にも大量の人手が必要となる。こうした高コストのアニメ産業について政府文化部の丁暁菁次官は「文化部としては、投融資と補助金のダブルトラックが重要だと考えています。補助金だけに頼るのでは産業として育成できません」と言う。
これまでアニメ対象の補助金の多くは映像制作に集中していたが、作品の魅力において物語や脚本も非常に大きな役割を果たすため、文化部では2018年からACG(アニメ、コミック、ゲーム)産業育成計画をスタートさせた。アニメ制作では、前半の作業に資源を投入し、企画段階の質を高めるためのサポートに力を入れる。
この他に、創作者には銀行との交渉を学んでほしいと丁暁菁は考えている。台湾はコンテンツ産業に対する政府の多様な補助制度があるが、他の国は実はそうではない。例えば『君の名は。』を世界中で大ヒットさせた日本の新海誠監督は、実は16年にわたって無名の時代を過ごしてきた。
その間、新海誠監督が日本の政府部門から受けた助成金は500万円のみで、主な製作費は、彼が所属する会社の社長が企画案をもとに銀行から借り入れた資金だった。作品が上映されて興行収入が入ると、その中から銀行に返済しており、収支は差し引きゼロの状態だった。だが、銀行から借りては返済するということを繰り返すことで、新海誠の与信限度額は上昇していき、制作費を得続けることができたのである。
台湾ではこうした無形資産への融資審査の制度が整っておらず、この点を強化していく必要がある。文化部の「文化コンテンツ産業投融資専業協力弁公室」は2018年、初めて創作者が制作委託契約をもって銀行から回転資金の融資を受けるのに協力した。それまで銀行では契約書に価値があるとは考えていなかったが、コンテンツ産業における委託契約は完成の保証に等しく、企画段階の回転資金を貸し付けるだけで、作品完成後には必ず返済を受けることができるのである。

史明輝は常に台湾アニメに希望を抱き続け、創作を続けつつ人材を育成している。(林旻萱撮影)
産業の努力と政府のサポート
政府の補助金制度は時に諸刃の剣となる。より多くの優れた作品の制作に協力することが目的だが、創作者が政府の補助に依存してしまうと、市場から淘汰されることとなる。いかにして国際レベルの質の高い作品を作り、さらに政府が提供する補助制度をうまく利用するかが重要なのだ。
文化部では、コンテンツ産業のブランド識別度の確立にも力を注ぎ、政府科技部と共同で「台湾デジタル・アセット・ライブラリー」を構築した。台北101などの代表的観光スポットや、今はない中華商場などの歴史的建築物をデジタルで3Dモデルにするもので、創作者はこれらを背景にすることでフィールドワークに費やす時間やコストを削減できる。また、こうして創作された作品から生まれる空間美学やビジュアルも台湾ブランドの文化的特色となる。
優秀なアニメには舞台が必要であり、国内の観客の支持も求められる。その蓄積が創作者の養分となり、観客の視野をも広げてくれる。作品と市場があってこそ、台湾アニメはより遠くへと歩んでいけるのである。

8日間にわたる関渡国際アニメフェスティバルでは講座やフォーラムも開かれ、次々と素晴らしい作品が上映される。

関渡国際アニメフェスティバルでは、海外から講師を招き、人形アニメのワークショップも開催される。

素材もスタイルもテーマも自由なアニメは可能性に満ちている。

文化部の丁暁菁次官は台湾アニメの将来に期待しており、政府部門として創作者が活動するための後ろ盾になりたいと考えている。(荘坤儒撮影)

長年の努力を経て、関渡アニメフェスティバルのKuanDog賞のトロフィーは世界に知られるようになった。(林旻萱撮影)