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台湾では手作りワークショップが増えている。デパートでも休日のマーケットでも、工芸職人が人々に教える姿が見られるようになった。手作り体験がブームになったことは、伝統工芸に対する台湾人の考え方が変化してきたことをあらわしている。
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台湾工芸美術学校を創設した陳明輝は、台湾の工芸産業は製造業から知識サービス産業へ転換するべきだと考える。
手作りワークショップがブームに
2019年7月中旬、中友百貨店と台湾工芸美術学校が協力して10日にわたる「手感体験展示販売会」が開催され、職人による手作り体験教室がのべ200回余り開かれた。単調かつ短時間の消費とは異なり、手作り教室には手の温もりを感じながら学ぶ楽しさがあり、これが多くの消費者をひきつけている。
「工芸家や職人による教室は、今後ますます増えるでしょう」と話すのは工芸美術学校を創設した陳明輝だ。現在、工芸に対する一般のイメージは作品にとどまっているが、将来的には体験カリキュラムが工芸家の重要な仕事になると見ている。これは、台湾の工芸が従来の製造業から知識サービス産業へと転換することを意味している。
陳明輝は『経験経済—エクスペリエンス・エコノミー』を引用して説明する。経験は主に、娯楽、美的、教育、脱日常の四種に分類でき、前二者は受動的な参加、後二者は能動的な参加となる。かつて工芸は「美的」経験であり、消費者は展覧会やマーケットなどで、その美しさを鑑賞してきたが、これを体験型にすることで教育や脱日常の活動へと発展させられるのである。

生徒たちは手作り体験の授業を通して素材の性質を学び、 探求心を育む。
五感の体験を教育に
台湾の工芸産業を転換し、若い人々に工芸の美に触れてもらうために、陳明輝は2017年に「台湾工芸美術学校」を設立した。彼はこの2年、各地の学校を訪ねてさまざまなカリキュラムを提案すると同時に、工芸家に教え方を指導してきた。学校と工芸家の仲立ちをすることで、若い世代が幼い頃から工芸の楽しみと価値に触れられることを願っている。
「樹液を出す木材を見たことはありますか?」と陳明輝は笑いながら聞く。体験を重視する教室で、生徒たちが耳にするのは一方的な指導ではない。乾燥していない木材を手にし、ノミをふるう音を聞き、まだ樹皮のついた木材を肌で感じる。音を聞くことで木材の特質が分かり、匂いを嗅げば強い木の香りがし、手で触ればその肌理を感じることができる。五感を発揮した木工カリキュラムの目的は職業訓練ではなく、五感と知性を活かして思い切り感じることだ。
このカリキュラムは学校の教員に衝撃を与えた。手作りのブームが起きていることから、学校側も工芸の高い価値に注目するようになり、プロジェクト予算を申請して工芸家を招いての授業を行なうようになってきた。課程の明確な目標と詳細な計画をもって生徒たちに素材を認識させ、己と環境との関係を考えさせるのである。
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生徒たちは手作り体験の授業を通して素材の性質を学び、 探求心を育む。
伝統工芸から体験サービスへ
こうした変化は従来の工場にも影響を及ぼし始め、製造業から教育や体験ビジネスへと方向転換する企業も出てきた。台東県多良車駅の近くにある向陽薪伝木工坊は、2009年の台風8号(八八水害)の後に、大量に発生した流木を処理するために設けられた。それから10年、生産を主とする経営方針だったが、しだいに問題が出てきた。木工坊は家具の原材料産地や市場から離れすぎており、輸送コストを差し引くとほとんど利益が出ないのである。そこで、注目され始めた経験経済(エクスペリエンス・エコノミー)に目を向け、しだいに教材生産へと方向転換してきた。
「向陽薪伝木工坊の裏には一面の林があり、木工科には最良の教材となります」と陳明輝は言う。家具には向かないが教材用木材にはなる。学校の木工科に提供するとともにワークショップを開き、現地の物語や特色を活かして消費者にユニークな体験を提供している。
木工坊の転換も台湾工芸美術学校の協力を得て実現し、教師育成基地も設置された。訓練を受けた工芸家は、製作過程を体験教育カリキュラムへと転換して教室を開き、消費者が手作りを通して素材や技術を理解できるようにしている。
「最近はショッピングモールやマーケットからの依頼が多いのですが、工芸家は学校の授業に忙しくてなかなか参加できません。中友百貨店との協力のような大型イベントは、多くても年に一回しか開催できません」と陳明輝は言う。その口ぶりからも「手作り体験」の人気がうかがえる。今では工芸は商品であるだけでなく、一般の人々が感覚と知性を満足させる経験なのである。
2019年7月中旬、台中の中友百貨店が開催した「手感体験展示販売会」では、多くの消費者が手作りの喜びを味わった。(台湾工芸美術学校提供)
子供の心を取り戻す小さな店
台北市内湖にあるFun-Makerも、こうした魅力にあふれる店で、国内外の消費者が集まってくる。路地裏の小さな店は、手作りがもたらす穏やかな喜びと達成感に満ちている。
Fun-Makerはレーザーカット技術を用いた手作りワークショップだ。主に木製品を扱っており、映画に出てくるような銃や、実用的なライト、時計、ピクニックバッグなども作る。
オーナーの喬安は微笑みながら出迎えてくれ、淹れたての熱いお茶を出してくれる。店内には木製品が並べられ、温かいライトが注ぎ、温もりが感じられる。喬安は壁に貼られたたくさんの写真を指し、「これらはお客様と私たちの思い出です」と語る。写真の中にはお年寄りから子供まで、台湾人だけでなく、香港やマカオ、マレーシアなどから訪れた旅行者も映っている。共通しているのは、誰もが自分の作品を手に明るく笑っていることだ。
オーナーのMacはもう一つの壁から木製の銃を取り、簡単に操作方法を説明した後、テーブルに木の人形を置いて銃を向けると、カタンという音とともに人形が倒れた。壁に並べられた銃弾は輪ゴムなのに、驚くべき力である。口数の少ないMacだが、目を輝かせながら作品を一つひとつ紹介してくれる。最新作はモーターをつけたマシンガンで、輪ゴムを連続発射できる。
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「体験」を重視する手作りの授業で、生徒は新鮮な素材に触れて自ら処理する。
考え抜いた「体験の時間」
店内の繊細な作品はすべてMacがデザインしたものだ。5年前まで電子関係の企業のサラリーマンだった彼は、機械について学んだことはなく、ただ手で何かを作るのが好きだったという。自分の興味と教育という理想を実現するため、同じ理想を持つ喬安と一緒に店を開くことにした。彼らにとって手作りは自己表現の手段であり、世の中の期待に束縛されず、「より良い自分」になれるものだという。
「私たちの商品は体験です」と喬安は言う。Fun-Makerは消費者に創作に取り組む時間を提供する場で、目標は作品を完成させることではない。その体験のために、店内の飾りつけやお茶、身につけるエプロンなども丹念にデザインされており、家にいるような気分にさせる。喬安はお客のニーズも観察する。一人で楽しみたい人もいれば、おしゃべりしたい人もいて、状況を見ながら対応を変えていく。こうした繊細さが消費者の心をつかみ、香港からのリピーターは、二度目に訪れた時に「ここのお茶とあなたたちが懐かしくて」と言ってくれたそうだ。
一度に8人が作業できるFun-Makerだが、お客が一人でやりたいという時はその要望に応える。中には毎年誕生日に一人で予約する人もいて、自分へのプレゼントを作るという大切な時間を静かに過ごせるようにしている。
ここではテーマの範囲内で自分が作りたいオリジナルの木製品を作ることができる。ある時は、軍の女性士官が米国での訓練に発つ前に来て、米国の友人との交流のためにウィンチェスター・ライフルとP90サブマシンガンを作っていった。また離島の蘭嶼で雑貨店を営む女性は、まもなく島にコンビニが出来ると商売に大きく影響するというので、レーザーカット技術を学びに来て、蘭嶼の土産になる木製品を作っていった。
このように一人ひとりの理由やニーズは異なるが、「どの人もここへ来ると子供に返る」と喬安は笑う。Macの設計には魔力があり、店に入ってきた人はみな子供の心を取り戻す。大学教授でさえ、人目も気にせず、子供向けの回路教室に来たがったそうだ。小型のスピーカーを手作りしたいためである。
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繊細なデザインのライト「転動台湾、点亮未来」は、蔡英文総統のオフィスにもある。
作品を越える工芸の価値
このようにFun-Makerが高い評価を得るのを見て、多くの人が木製品の材料をキットにして販売してはどうかと提案している。しかしMacと喬安は、それではデザイナーの苦心が理解されず、技術と創意の価値が相応に評価されないと考える。だからこそ二人は現場での体験をメインとし、人々に簡単な機械の原理を知ってもらい、自ら創意を発揮して自分だけの作品を作ってもらいたいと考えている。
路地裏に小さなショップを開いて5年、内外の多くの人を魅了する店は、夫婦が夢を実現する場所でもある。店に入ってきた人が、誰でも家に帰ったかのように温もりを感じ、幾度も足を運びたくなるような場を目指している。そして、台湾のMaker(メイカー)はロボットを作るだけでなく、手作りの工芸も見逃せないことを知ってもらいたいのである。
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Fun-Makerを経営するMacは、手作りの過程で創意を発揮することは作品を完成させることより重要だと考える。
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Fun-Makerの入り口にはさまざまな木製玩具や小物が飾られていて来店者の目を引く。
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Fun-Makerのブースで、木製玩具を手に取って構造を観察する子供たち。