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竹の色を保つ処理を施した印鑑箱。鮮やかな緑色は台湾の山林を思わせる。
現代社会において、竹製品は私たちの暮らしから大幅に姿を消した。しかし、竹工芸の中心地である南投県の竹山を訪れると、アイディアに富んだ美しい竹の工芸品にひかれることだろう。
「竹采芸品」の工場に入ると、長い竹材が一本ずつ、表面の油抜き、煮沸、色の保持、乾燥、裁断などの下処理を施され、それから需要に応じてさまざまな竹器に加工されていく。
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青竹の色を保つ処理を施して作った菊紋水果盤。時間を経ることで、鮮やかな緑が少しずつ黄色味を帯びてくる。
さまざまに変化する竹材
竹の節を一つ残して裁断し、磨きあげると竹の茶杯になる。節を二つ残せば急須になる。
湾曲した竹の根を手作業で加工すると、趣のある筆立てや、バッグの持ち手やボタンができる。狭い空間で圧迫されて育った、棹が四角い「方竹」を窪みに沿って裁断すれば、笹の葉のような形の香立てになる。
竹の表面は自然に黄ばんでいくが、「保青」という処理を施せば緑色を保つことができる。燻蒸すれば深い褐色になり、炭化させれば真っ黒になる。また、硫酸と土を合わせたものを塗ると、腐食して美しいまだら模様ができる。
竹の工芸品を作る竹采芸品のアトリエに入ると、さまざまな製品が並んでいる。これらはすべて創業者である林群涵さんの作品だ。一つの素材を千変万化させるには、その素材を熟知していなければならない。「竹ほど可塑性の高い素材はありませんよ」と林さんは言う。
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竹製の急須。硫酸を加えた土を塗って腐食させることで、亀裂状の紋様が入る。
竹の代弁者
この言葉には根拠がある。
宜蘭県出身の林群涵さんは、宜蘭農工職業学校から嘉義農業専科学校、さらに中興大学森林学科の大学院まで進んだ。一貫して学んできたのは森林学である。こうした背景から、彼は竹材に対して深い理解と専門性を備えている。
その話によると、竹材の応用は大きく二つに分けることができる。一つは、外側の繊維密度が最も高い表皮を取り、それを編んで器にするというものだ。もう一つは、竹材を厚みや幅を揃えて長い棒状に切断し、接着剤を用いて圧縮積層して合板にするというものだ。
海洋性気候の台湾では、竹は変化の激しい気候の影響を受けて高い硬度と強度を持つようになり、曲げに強い性質も備えている。台湾は竹の産地としては条件的に非常に恵まれており、そのため、日本の剣道の竹刀にも専ら台湾の竹が用いられているのである。
加工に強いだけでなく、台湾では竹の生長が非常に速く、4年で成木になる。炭素排出量にも貢献する環境に優しい素材である。竹材のメリットに精通する林群涵さんは、学校を出た後、竹産業の中心地である南投県草屯に移住して起業した。
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竹博士・林群涵。
竹本来の鮮やかな緑を活かす
彼は修士論文のテーマを選ぶ時、主流である木材ではなく、竹材を選んだ。実験室にあった永久標本からインスピレーションを得た彼は、独自に「孟宗竹の青さを保つ技術」を開発した。
その話によると、竹は伐採すると、表面の葉緑素がすぐに分解してしまい、そこに日が当たることによって黄色に変わっていく。そのため現在の竹製品の多くは黄色いのである。
こうした状況に対し、彼は「置き換え作用」という方法を用いて緑色を保つ。3年生の竹材を薬剤を入れた水に入れて加熱し、葉緑素の中のマグネシウムと薬剤中の銅を反応させる。そうして加熱を終えると、銅が再び水の中へ戻っていく。この処理を施すことによって竹の葉緑素の分解を大幅に遅らせることができ、また素材の中に残留することもないためSGS検査にも合格する。
この心惹かれる鮮やかな緑色が、市場では珍しいカトラリーや茶器などの製品に活かされている。従来の古めかしい竹細工に比べると、青竹の色を保つ技術によって、工芸品は自然のままの竹の生命力を感じさせるものとなる。
林群涵さんは伝統工芸の訓練を受けた経験はないものの、素材としての竹を研究してきた専門性と熱意から、次々と竹細工のアイディアを打ち出す。しかし、美しい木目があり、良い香りがする木材の方が竹材より優れているという人も多く、竹材はなかなか注目されない。それでも「竹博士」と呼ばれる彼は、その専門性を活かして竹の良さを最大限に引き出そうとしている。まさに竹の代弁者と言えるのではないだろうか。
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色を保つ処理をした竹で作った茶さじ。棹が四角い「方竹」を使った左の茶さじは、台湾の優良工芸品賞に輝いた。